◆欠損金の繰越期間が9年に。
繰越欠損金とは、過去の欠損金を繰り越して当該年度の損金に充てられるものです。簡単に言うと、過去にあった損を使って法人税を減らせるもの、ですね。
事業再生の局面にある企業では、必ずと言っていいほどこの繰越欠損金が登場します。再生計画を練る上で、繰越欠損金の活用は見逃してはならないポイントです。
さて、この繰越欠損金ですが、これまで繰り越せる期間は7年でした。これが平成23年12月の税制改正で、9年に伸長されました(実際の施行は24年の4月1日から)。
もう少し細かくいうと、
・平成20年4月1日以降に終了した事業年度については9年
・平成13年4月1日以降、平成20年4月1日前に終了した事業年度については7年
・平成13年4月1日前に終了した事業年度については5年
と変更になりました。
◆変更の効果
ちょうど平成20年にリーマンショックが起きていますから、この年に大きな損失を出している企業さんが多いと思います。このような企業さんは今回の制度変更により、9年間(これまでより2年プラス)、その損を使い切るまで、活用できることになりました。
V字型の再生・回復をすることが難しい、地道にコストダウンに励みながらコツコツと利益を回復していく中小企業にとっては大変ありがたい施策です。再生計画を立てる上で、税負担の有無、多寡は返済原資や手もと資金の確保に非常に大切なポイントになりますからね。
◆手もと資金と法人税
事業再生の局面に陥り、何とか踏ん張って事業の立て直しに励み、やっと利益が出るようになった企業さんは、出た利益から借入金の返済をしていきます。
例えば、A社さんが月に100万円の経常利益が出るようになったとしましょう(ここでは特別な費用収益はないと仮定)。
「月に100万円利益が出たので半分の50万円は月々返済して、残額の50万円は手元資金にできるな」と考えるのは間違いです。なぜかというと法人税があるからです。儲かったら当然、税金を払わねばなりません。
月に100万円の利益だと年間1200万円の利益。
法人税等率が40%(中小企業は35%)として、
税額は1200万円×40%で480万円。
銀行に月50万円返済したので年間返済額は600万円。
とすると残るお金は、
利益1200万円-返済600万円-法人税480万円の120万円だけです。
先ほどの話でいうと「10万円は手元資金にできるな」が正しい。
後からくる法人税を考慮しないで「年間600万もお金が残るんだから、ちょっと贅沢しちゃえ」なんてお財布の紐を緩めると、黒字なのにキャッシュ的にはマイナス、なんてコワイことが起こらないとも限りません。
黒字倒産って聞いたことありませんか?
会社は赤字でも潰れませんが、キャッシュがなくなれば潰れますので要注意です。
◆再生局面における繰越欠損金活用の意味と効果(その1)
金融機関等の支援・協力の下、何とか頑張って、少ないながらも利益を出し、再生の軌道に乗せてきた企業さんがいたとします。
しかし、やっとの思いで作り上げた利益も、その40%は税金として持って行かれる(こういう表現が妥当かどうかは別にして)ことになります。
借入金返済分は、利益から法人税を引いた残りの部分から捻出することになります。
もし法人税が無ければ(虫のいい話ですが)、その分を借入金の返済や投資に充てられ、再生のスピードは一気に早まります。逆に言えば、法人税が再生の足かせになってしまっている面もあるわけです。
ここで繰越欠損金の損金算入が効果を発揮します。
例えば、A社さんに1億円の欠損金があるとします。これを繰り越せれば欠損金を使い切るまで、繰り越せる期間中は損金に算入できることになりますね。
年間利益1200万円なら1200万円分の損金を立て、利益をゼロにできる、税金を払わなくて済むわけです。
欠損金を繰越算入できなければ、法人税等で480万円が手元から出ていくことになります。これが手もとに残るわけですから、このインパクトは大きいですよね。
◆再生局面における繰越欠損金活用の意味と効果(その2)
これまで欠損金を繰り越せる期間は7年間でした。
欠損金を使い切れてなくても、8年目以降は普通に税金を払うわけです。
これが9年になったということは、2年分得した、ということです。
前回の計算でいうと2年で960万円!すごいですね。
ただし、繰り越せる限度は欠損金の額分(1億円)ですから、
8年間でトータル9600万円(1200万円×8年)損金として使ったとすれば、
9年目に損金算入できる額は、
欠損金額1億円-既に損金算入した額の総額9600万円の400万円
になります。なので、
9年目については利益1200万円-欠損金残額400万円の800万円に法人税率40%を掛けた320万円、税負担が生じることになりますね。
単純計算でいうと2年で960万円得した感じがしますが、
細かくいうと、A社さんの場合は2年で640万円得した、という計算になります。
9年とは言わず、1、2年で欠損金を使い切るほど復活できるのであれば、それはそれでとても良いことですし、そういう再生・回復ができるのであればそれがベストです。
しかし、確実な計画を立てるという点で、あまりにもハッピー過ぎる、実現可能性に乏しい計画は信用度に欠け、銀行など債権者の方に対して不誠実なものとなってしまいます。
一般的に中小企業の再生計画は10年間での債務完済を目指します(なぜ10年かという点についてはいろいろあるのですが、ここでは割愛します)。
言い換えれば、10年間で完済できる、かつ、実現確度の高い計画が立てられれば再生計画として問題ない、ということになります。
A社さんを例にして簡単に弁済計画を考えてみます。
利益が1200万円出ていることから逆算して(経常利益率を3%と仮定)、
売上高を4億円、金融債務が売上高の半分として2億円と仮定します。
この2億円を10年で完済できればいいわけですから、
まず年間利益から1000万円を返済に充て、10年間で1億円。
減価償却費が年間1000万円あったとして、これを返済にあてれば10年で1億円。
これで計2億円の返済ができます。
売上が伸びず、現状維持であったとしても債務を完済できるわけです。
では、欠損金を損金算入できなかった場合はどうかというと、
税引き後の利益は、
税引き前利益1200万円×(1-税率40%)=720万円なので、
これを全て返済に充てたとして10年間で7200万円の返済。
法人税がない場合は10年間で1億円返済できましたが、それと比べ2800万円足りませんね。
ということはこの足らずの2800万円をどこかで捻出しなければならないことになります。それはコストの削減であったり、売上の増加であったりするわけです。言い換えれば、再生計画がより厳しいものとなるわけです。
欠損金を繰り越せれば税負担が減り、その期間が伸長されればよりその効果が活用できることについてご理解いただけましたでしょうか。
債務の返済を進めるためには税負担が軽いに越したことはありません。
負担が軽ければ再生計画も立てやすくなります。
再生計画策定の際は欠損金の効果も忘れず盛り込みましょう。