返済資金を借入でまかなわない

売上が減少し、返済できるだけの利益が上がらないとき、どうしますか?

 

多く見受けられるのは、返済資金を融資で引っ張ってくること。

つまり、借りたお金を借りたお金で返すわけです。

これはまずいよね、と誰もが思いますよね。

借入れが雪だるま式に膨らむのは間違いないので、すべきではない、と普通なら皆さんそう考えます。

 

しかし、再生の相談にいらっしゃるほとんどの企業が借りて返済しているのが現実です。

それはなぜか。

 

第一は、売上の減少が一時的なもので後すぐ回復するから大丈夫という読み(ある意味願望)。第二は、そこに融資する金融機関がある、借りられる、ということです。

 

第一の読みは大抵外れます。外れなくとも絶対に100%回復する明確な証が無い限り、その読み(判断)は間違いです。なぜなら世の中絶対は無いからです。ですので、返済できない状態になって、その資金を借入金で賄うのは100%間違いです。

 

なぜそこまで厳しく断じるか。

それはその借入金が再生の重荷になるからです。返済のための借入れをしなければどれだけ再生がスムーズか、現場実務で身を以て感じているからです。

 

普通に事業をして返せないものを借入れで賄ったとしても、早晩結果は決まっています。

借入れた資金が底をつくわけですね。

 

底をついたらどうするか。もう一度借りますか?たとえもう一度借入れができ、返済資金を用意できても結果は同じです。また資金が底をつくわけです。

 

それは返済できるだけの利益が上がっていないから。

となると、もう無理ということとなり、再生の道を探ることになります。

再生の道を探るとは、つまり、再生計画なり経営改善計画なりを策定することです。

 

再生計画は自社の再生のために策定するわけですが、別の顔もあります。それは対債権者、借入金融機関等に対する説明資料の面です。

 

普通に返せないわけですから、利益構造が再構築できるまで、つまりは利益が出るようになるまで、返済期間を延ばしてもらったり、一定期間は返済を猶予してもらったりする必要があります。頭を下げてお願いするわけです。

 

そのとき、「これこれこういう理由で返済できなくなり、今現在こういう状態で返済が困難になっています。ついては、こういう改善策を考え、実行するとこのくらいの利益が出るので、この利益のうちこれくらい返済に充てられます。ただ、そうすると完済済までには何年かかってしまいますが、応じていただけませんか?」という話をするための資料ですね。それが再生計画なり改善計画ということになります。

 

その計画の妥当性などを判断して金融支援の可否を貸出金融機関は判断するわけです。この計画じゃ無理、とか。借入総額を完済するにはどのくらいの年月がかかるか、というのが非常に重要なんですね。

 

法人税を考慮しない(大抵繰越欠損金があるので)と税引き前当期利益に減価償却費など実際にお金が出て行かない費用を足しこんだ額が返済に充てられる限界値です。1000万円の税前利益で減価償却費が500万円あるなら1500万円は返済できるわけです。

 

例えば、売上が1億円として、原価率が75%としましょう。

とすると、売上1億円-原価7500万円で粗利は2500万円ですね。

販管費が売上の15%くらいだとして、1500万円。

差引1000万円が営業利益。

 

借入金が1億円だとして、金利3%だと支払利息が300万円。

他特殊なものはないとすると税前利益は700万円。

減価償却費が300万円だとして、返済原資は1000万円。

借入金の返済期間が8年とすると、本来は年1250万円返済しなければなりません。

返済期間が5年なら年2000万円です。

 

返済原資と比べてとても無理な金額なので、リスケジュールをお願いせねば、お金がどんどんなくなって資金不足に陥ってしまいます。

金融機関にリスケをお願いするにあたり、再生計画を策定します。

 

実質債務超過額が5000万円だとすると、債務超過解消までに5年。完済までに10年。

通常、返済原資の8割程度を返済に充てますので、年800万円の返済が現実的な数字。

とすると、債務超過解消までには6.25年。完済までに12.5年

なんとかやっていけそうですね。

 

これがもうちょっと苦しい会社だったらどうなるか。

例えば原価率が85%(こちらの方が現実的かもしれませんね)だとしたら。

そうすると粗利は1億円の15%で1500万円です。

 

販管費は1500万円ですから、営業利益はトントン。

支払利息が300万円だと税前利益は▲300万円で赤字です。

減価償却費が300万円ですから、返済原資は▲300万円+300万円で0。

 

返済原資が無い状態です。これでは単純にリスケだけでは解決しないですね。

売上を上げるか、コストを下げるかして少ないなりにも返済原資を作り出さねば、一生返せません。

で、2番目の例(粗利15%の方)で、やってはいけない、返済資金を借入れで賄うことをしたとします。

 

とりあえず2000万円借りることができました。

 

その後の状況は、というと単純に現金が減っていきます。

返済額が年2000万円なので、1年経つころにはもう資金が底をつきます。

さすがにそうとなると、貸してくれるところはありませんので、これはまずい、ということになって再生計画を考えます。

 

再生計画は中小企業の場合、基本5年~10年で正常化するようなものでなければなりません。

売上が上昇する、というのはなかなか簡単にいきませんので、コスト削減による収支改善が基本形になります。(現場としては売上UPとコストDOWN両方一緒にやることになります)

 

そのままでは返済原資がないので、原価率と販管費の低減をするとしましょう。

85%だった原価率を80%まで下げ、販管費も2割削減します。

 

とすると、

 

売上1億円-原価8000万円で粗利は2000万円ですね。

販管費が2割削減して(15%→12%)として、1200万円。

差引800万円が営業利益。

 

借入金が1億円だとして、金利3%だと支払利息が300万円。

他特殊なものはないとすると税前利益は500万円。

減価償却費が300万円だとして、返済原資は800万円。

 

実質債務超過額が5000万円+2000万円で7000万円だとすると、債務超過解消までに8.75年。完済までに15年。通常、返済原資の8割程度を返済に充てますので、年650万円の返済が現実的な数字。

とすると、債務超過解消までには10.77年。完済までに18.5年。

これは再生計画としてはかなりきびしい。

 

ここで債務超過解消までに要する期間と返済の関係を見ていきましょう。

 

債務超過額        債務超過解消に要する期間

        (返済額650万円)    (返済額800万円)   

3250万円      5.00年          4.06年

4000万円      6.15年          5.00年

5000万円      7.70年          6.25年

6500万円      10.00年          8.13年

7000万円      10.77年          8.75年

8000万円      12.31年          10.00年

9000万円      13.85年          11.25年

10000万円      15.38年          12.50年

12000万円      18.46年          15.00年

 

実抜計画で求められる正常化までの期間は原則3年、中小企業なら5年~10年ですから、正常化までに10年というのがかなり際どい分水嶺。6500万円という数字が限界値ですね。

 

これを超えるとなると、収益改善が見込めない限り、法的な再生か、債務免除などを含めた抜本的な私的整理の方法を探ることになります。

 

金融機関側も債務免除など何がしか負担をするとなれば、経営者の責任も当然に問われ、私財の提供、減資などを求められることも考えられます。

 

今回そもそもの実質債務超過額は5000万円でした。

追加で2000万円借入れたので債務超過額は7000万円となりました。

分水嶺、超えちゃいましたね。

最後のあがきの2000万円がこの差を生むわけです。

返せないお金は借りてはいけません。

 

普通に事業を回して返済できない状況になったら、まず借入金融機関に相談すること。さすがに借りてきて返せという担当はいないでしょう(そういう担当者もなかにはいますが)。

 

再生計画を策定する上では借入総額が少ない方がまちがいなく良いです。

無理をせず、早めに手を打つことが、会社再生・事業再生への何よりの近道です。

 

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問題解決画像池田輝之

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