■実抜とはなにか、合実とはなにか
金融機関に支払猶予を申し込むと、実抜計画(じつばつ・けいかく)とか合実計画(ごうじつ・けいかく)とかいう言葉を耳にすることがあると思います。
実抜だの合実だのは金融機関側の問題なので本当は顧客に話すようなことではないのですが、銀行の方はとかくこういった専門用語風の言葉を使いがちです。
話す相手が中小企業の親父さんであることを考慮していない発言ですね。とはいえ、謎の言葉を発せられて狼狽えないよう、こちらもある程度その「じつばつ」や「ごうじつ」なる内容を理解しておくに越したことはありません。
先ほどから出ている実抜、合実という言葉ですが、そもそもこれはそれぞれ、「実現可能性の高い抜本的な経営再建計画」、「合理的かつ実現可能性の高い経営改善計画」を略した名称なのですね。そのままだと長ったらしいので、簡略化されて、実抜計画、合実計画とよばれています。
再生計画や改善計画を金融機関に提出した際に金融機関が見るところは、原則、この実抜計画や合実計画に沿った内容となっているか否かです。
基本的に金融庁側は債務者企業を応援しなさいよ、という方針ですから、これに反することは金融機関側はやりづらい。
ではどういった場合に応援しなければならないか、というところで実抜計画を出しているかどうか、出せるかどうか、が大きな分岐点になるわけですね。
さらに中小企業の場合は合実計画でもかまわない、とされています。(このくだりで勘が良い方は実抜計画よりも合実計画の方が緩いものだな、ということがわかるかもしれませんね。)
言い換えると金融機関としてはこの実抜計画がなければ債務者企業を応援しない、支払猶予などに応じない、ということになってしまうわけですから、大変重要な資料になるわけです。
支払猶予をお願いする立場としては、お願いされる金融機関側の事情も汲み取って、対応さしあげるのがお互いにとってWIN-WINの関係になり、近道です。
実抜計画の金融機関用、リスケ用の資料の側面について説明してきましたが、きちんとした経営再建計画を作ることは、その企業さん自身のためになる、必要であることはいうまでもありません。
作らされている、という意識で作成するのは非常にもったいないです。時間も手間も大変かかる作業ですので、自分のためにという意識で取り掛かった方が、やる気になりますし、実際に経営の役に立ちます。
さて、ではその「実現可能性の高い抜本的な」や「合理的かる実現可能性の高い」とは一体なんなのか。そのままでは曖昧すぎる言葉で、見ただけではわかりません。具体的な内容は金融庁が出している監督指針やマニュアル、資産査定用のチェックリストに記載があります。
■具体的定義
では早速見ていきましょう。
まずは「実現可能性の高い抜本的な」の定義から。
これは『中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針』に具体的な記載があります。
番号でいうと、III-4-9-4-3でリスク管理債権額の開示という項目です。
下記がその内容です。
中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針
III-4-9-4-3 リスク管理債権額の開示
(2)開示区分
③貸出条件緩和債権
ハ.過去において債務者の経営再建又は支援を図ることを目的として金利減免、金利支払猶予、債権放棄、元本返済猶予、代物弁済や株式の受領等を行った債務者に対する貸出金であっても、金融経済情勢等の変化等により新規貸出実行金利が低下した結果、又は当該債務者の経営状況が改善し信用リスクが減少した結果、当該貸出金に対して基準金利が適用される場合と実質的に同等の利回りが確保されていると見込まれる場合、又は当該債務者の債務者区分が正常先となった場合には、当該貸出金は貸出条件緩和債権には該当しないことに留意する。
特に、実現可能性の高い(注1)抜本的な(注2)経営再建計画(注3)に沿った金融支援の実施により経営再建が開始されている場合(注4)には、当該経営再建計画に基づく貸出金は貸出条件緩和債権には該当しないものと判断して差し支えない。また、債務者が実現可能性の高い抜本的な経営再建計画を策定していない場合であっても、債務者が中小企業であって、かつ、貸出条件の変更を行った日から最長1年以内に当該経営再建計画を策定する見込みがあるとき(注5)には、当該債務者に対する貸出金は当該貸出条件の変更を行った日から最長1年間は貸出条件緩和債権には該当しないものと判断して差し支えない。
(注1) 「実現可能性の高い」とは、以下の要件を全て満たす計画であることをいう。
一計画の実現に必要な関係者との同意が得られていること
ニ計画における債権放棄などの支援の額が確定しており、当該計画を超える追加的支援が必要と見込まれる状況でないこと
三計画における売上高、費用及び利益の予測等の想定が十分に厳しいものとなっていること
(注2) 「抜本的な」とは、概ね3年(債務者企業の規模又は事業の特質を考慮した合理的な期間の延長を排除しない。)後の当該債務者の債務者区分が正常先となることをいう。なお、債務者が中小企業である場合の取扱いは、金融検査マニュアル別冊「中小企業融資編」を参照のこと。
(注5) 「当該経営再建計画を策定する見込みがあるとき」とは、銀行と債務者との間で合意には至っていないが、債務者の経営再建のための資源等(例えば、売却可能な資産、削減可能な経費、新商品の開発計画、販路拡大の見込み)が存在することを確認でき、かつ、債務者に経営再建計画を策定する意思がある場合をいう。
書いてありましたね。
「実現可能性の高い」とは、計画の実現に必要な関係者との同意が得られていて、計画における債権放棄などの支援の額が確定しており、当該計画を超える追加的支援が必要と見込まれる状況でなく、計画における売上高、費用及び利益の予測等の想定が十分に厳しいものとなっていること、となっています。
「抜本的な」は、概ね3年(債務者企業の規模又は事業の特質を考慮した合理的な期間の延長を排除しない。)後の当該債務者の債務者区分が正常先となることをいう。なお、債務者が中小企業である場合の取扱いは、金融検査マニュアル別冊「中小企業融資編」を参照のこと、とあります。
ざっくりいうと、かっちりした厳しめの計画で、3年で債務超過解消ね、ということになります。
ただ、抜本的なの尚書きで中小企業の場合は別途参照せよ、となってますので、中小企業の皆さんはそちらの別途も確認しておかないといけません。
■中小企業の場合
では別途の金融検査マニュアル別冊中小企業融資編を見てみましょう。
内容は検証ポイントの貸し出し条件緩和債権の卒業基準にあります。
金融検査マニュアル別冊中小企業編
2.検証ポイント
検証ポイント中5.貸出条件緩和債権
(2)貸出条件緩和債権の卒業基準
ホ.中小・零細企業等の場合、大企業と比較して経営改善に時間がかかることが多いことから、資産査定管理態勢の確認検査用チェックリスト「自己査定」(別表1)1.(3)③の経営改善計画等に関する規定を満たす計画(債務者が経営改善計画を策定していない場合には、債務者の実態に即して金融機関が作成した資料を含む。以下「合理的かつ実現可能性の高い経営改善計画」という。)が策定されている場合には、当該計画を実現可能性の高い抜本的な計画とみなして差し支えない。また、今後の資産売却予定や諸経費の削減予定等がなくても、債務者の技術力、販売力や成長性等を総合的に勘案し、債務者の実態に即して金融機関が作成した経営改善に関する資料がある場合には、貸出条件緩和債権に該当しないことに留意する必要がある。ただし、経営改善計画の進捗状況が計画を大幅に下回っている場合には、合理的かつ実現可能性の高い経営改善計画とは取り扱わない。また、経営改善計画の検証にあたっては、上記3.経営改善計画を踏まえて検証する必要がある。
ありましたね。
中小企業の場合は、合理的かつ実現可能性の高い経営改善計画(合実計画)が策定されている場合には、この計画を実現可能性の高い抜本的な計画とみなして差支えない、となっています。
実抜計画が「厳しめに計画して債務超過解消3年」でしたから、合実計画は要件がこれよりゆるくなっているはずです。となると合実計画の定義を知りたいですね。
合実計画の定義を知るには、上記マニュアルに記載の資産査定管理態勢の確認検査用チェックリスト「自己査定」(別表1)1.(3)③を見てみないといけません。
資産査定管理態勢の確認検査用チェックリスト
「自己査定」(別表1)1.(3)③破綻懸念先-自己査定結果の正確性の検証
左記に掲げる債務者が破綻懸念先とされているかを検証する。ただし、金融機関等の支援を前提として経営改善計画等が策定されている債務者については、以下の全ての要件を充たしている場合には、経営改善計画等が合理的であり、その実現可能性が高いものと判断し、当該債務者は要注意先と判断して差し支えないものとする。
なお、本基準は、あくまでも経営改善計画等の合理性、実現可能性を検証するための目安であり、経営改善計画等が策定されている企業の債務者区分を検討するに当たっては、本基準を機械的・画一的に適用してはならない。
債務者区分の検討は、業種等の特性を踏まえ、事業の継続性と収益性の見通し、キャッシュ・フローによる債務償還能力、経営改善計画等の妥当性、金融機関等の支援状況等を総合的に勘案して行うものとし、本基準の要件を形式的に充たさない債務者を直ちに破綻懸念先と判断してはならない。
特に、中小・零細企業等については、必ずしも経営改善計画等が策定されていない場合があり、この場合、当該企業の財務状況のみならず、当該企業の技術力、販売力や成長性、代表者等の役員に対する報酬の支払状況、代表者等の収入状況や資産内容、保証状況と保証能力等を総合的に勘案し、当該企業の経営実態を踏まえて検討するものとし、経営改善計画等が策定されていない債務者を直ちに破綻懸念先と判断してはならない。
さらに、債務者が制度資金を活用して経営改善計画等を策定しており、当該経営改善計画等が国又は都道府県の審査を経て策定されている場合には、債務者の実態を踏まえ、国又は都道府県の関与の状況等を総合的に勘案して検討するものとする。
イ.経営改善計画等の計画期間が原則として概ね5年以内であり、かつ、計画の実現可能性が高いこと。ただし、経営改善計画等の計画期間が5年を超え概ね 10年以内となっている場合で、経営改善計画等の策定後、経営改善計画等の進捗状況が概ね計画どおり(売上高等及び当期利益が事業計画に比して概ね8割以上確保されていること)であり、今後も概ね計画どおりに推移すると認められる場合を含む。
ロ.計画期間終了後の当該債務者の債務者区分が原則として正常先となる計画であること。ただし、計画期間終了後の当該債務者が金融機関の再建支援を要せず、自助努力により事業の継続性を確保することが可能な状態となる場合は、計画期間終了後の当該債務者の債務者区分が要注意先であっても差し支えない。
ハ.全ての取引金融機関等(被検査金融機関を含む)において、経営改善計画等に基づく支援を行うことについて、正式な内部手続を経て合意されていることが文書その他により確認できること。ただし、被検査金融機関が単独で支援を行うことにより再建が可能な場合又は一部の取引金融機関等(被検査金融機関を含む)が支援を行うことにより再建が可能な場合は、当該支援金融機関等が経営改善計画等に基づく支援を行うことについて、正式な内部手続を経て合意されていることが文書その他により確認できれば足りるものとする。
ニ.金融機関等の支援の内容が、金利減免、融資残高維持等に止まり、債権放棄、現金贈与などの債務者に対する資金提供を伴うものではないこと。ただし、経営改善計画等の開始後、既に債権放棄、現金贈与などの債務者に対する資金提供を行い、今後はこれを行わないことが見込まれる場合、及び経営改善計画等に基づき今後債権放棄、現金贈与などの債務者に対する資金提供を計画的に行う必要があるが、既に支援による損失見込額を全額引当金として計上済で、今後は損失の発生が見込まれない場合を含む。なお、制度資金を利用している場合で、当該制度資金に基づく国が補助する都道府県の利子補給等は債権放棄等には含まれないことに留意する。
結構長い文章ですが、ざっくりいうと、
「原則5年で債務超過解消の計画だけど、10年まででもOK。その場合は計画数値が8割切らないようにしてね。ただし金利減免とリスケだけの場合だけね。それと計画に基づく支援については全行一致で。」
ということですね。
つまり、債務超過までの期間(正常化)が実抜だと3年ですが、合実では5年~10年ということなので、中小企業が経営再建計画を作るときはMAX10年で正常化する計画を策定すれば良し、ということになります。
一度計画した数値が8割を切るといろいろと面倒そうですね。なので、厳しめに数値計画を作る必要があるのですが、ただ厳しくしてしまうとそもそも正常化するまでの利益が上がらない場合もありますよね。正直ここが一番、頭を悩ますところです。
実抜と合実の内容とその関係について見てきましたが、いかがでしょうか。
ご参考にしていただければ幸いです。