会社を継ぐ人が知っておいたほうがよいこと

■連帯保証も引き継ぐ

 

父親や祖父が創業者である、2代目あるいは3代目候補の方がそろそろ本格的に代替わりをするタイミングにきているようですね。皆さん親孝行ですばらしい。しかし伴い、再生支援の相談も最近は2代目3代目さんからのものが増えてきました。継いだは良いけど、ふたを開けたら「ええっ」という状態が多いようです。

 

さて、「会社を継ぐ」とはどういうことなのでしょう。

 

社長になる。

代表取締役になる。

 

もうひとつ、上の二つとはちょっと違った、しかし大きなものを引き継ぎます。

 

それは連帯保証。

 

中小企業の代表者は、会社の借入についてほぼ100%連帯保証しています。

代表者が替わると貸し手は新しい代表者に連帯保証を求めます。

 

連帯保証とは、文字通り債務を連帯して保証するということですが、簡単に言うと借金の保証人です。それが連帯であれば検索の抗弁がない云々といろいろあるわけですが、とりあえずは、会社が借入れを返せなくなったら自分に降りかかる、と考えていただけばいいかと思います。会社の借入は個人とは大きさが違いますので、そうなると普通は破産しますね。

 

つまり、連帯保証することで公私の別が無くなるわけです。

会社が倒産すれば、連帯保証人の代表者は私財を差し押さえられ、貸付金の回収に充てられるわけですね。汚い言葉で言えば「ケツの毛まで抜かれる」わけです。

 

これを引き継ぐわけです。

 

重いですね。

後継者にも家族がいるでしょう。

年代的にまだ手のかかる小さいお子様もいるかもしれません。

 

で、なにが言いたいかというと、

会社の財務状態を知らないで引き継いでいいんですか?

ということ。

 

知ったところでどうせ引き継がなきゃいけないのだから、そんな小難しいことは知る必要なし、という豪快な方もいらっしゃるでしょうが、普通はそれならそれで心の準備をしておきたいものです。

 

財務状態を知る。

小難しい言い回しですが、簡単に言うと「財布の中どうなってるの?」ということです。

連帯保証の視点からみれば、「カネ返せんのか!?」ということですね。

 

会社を引き継いだら、代表者になったら、連帯保証も“もれなく”付いてくるわけですから、引き継ぐ会社がどういうお財布状態にあるのかは知っておきたいところ。“火の車”を引く継ぐなら、それなりの覚悟がいる、ということです。

 

ではどうやって火の車がどうかを知ることができるか。

何を見ればわかるのか。

 

理想的には、「資金繰り表」です。

資金繰り表は文字通り資金繰りの状況を表にしたもので、現金の出入り(収支)が記載されています。現金が出ていく方が多ければ、つまりはお金が減っていくということですから、よろしくない状態と言えるわけです。

 

しかし、小規模企業さんとかですと資金繰り表をつけてらっしゃらないところもあるんですよね(本当は良くないですけど)。資金繰りは社長さんの頭の中、というところも多いです、実際は。親父教えてくれよというのもなかなか言いづらいでしょうし、教えてくれてもどこまで本当か怪しいところ(経験上)です。会計屋さん入れて財務デューデリジェンス(精査)する場合などは、会社の通帳を全部あらっていく、という作業をしたりしますが、会社を継ぐ前にそんなことできません。

 

となると自分で調べるしかない。

 

じゃあ何を見て?というと、これはもう財務諸表。ウソや粉飾が散りばめられているかもしれませんので要注意は要注意ですが、会社のお財布状態がわかるものはこれしかありません。

 

■会社の財務状態を知る

 

会社にいくら資産があって、いくら負債があるか。

いくら売ってて、いくら儲かっているか。

借金がいくらあって、それは返せる金額なのか。

 

財務諸表を見れば(一応)わかります。

 

さて、ここで財務諸表について。

財務諸表とは、前述の通り、ざっくりいうと会社の資産負債の状況と売上と利益の結果が載っている書類です。資産負債の状況を表したものを貸借対照表(たいしゃくたいしょうひょう)といい、売上利益の結果が載っているものが損益計算書(そんえきけいさんしょ)といいます。

 

貸借対照表は、略語でB/S(ビーエス)と呼ばれることが多いです。一方の損益計算書はP/L(ピーエル)と呼ばれます。B/SはBalance Sheet(バランス・シート)の頭文字、P/LはProfit & Loss statement(プロフィット・アンド・ロス・ステートメント)の略語ですね。これからはこの略語を使っていきます。

 

早速見方。

 

B/Sは表の左側が資産、右側が負債と資本となっています。

構造的には、資産=負債+資本 という感じになっています。左の総額=右の総額ですね。つりあっているのでバランス・シートと呼ぶわけです。

持っている資産に比べて負債(借入など)が大き過ぎると、資本がマイナスになります。これを債務超過(さいむちょうか)といいます。例えば資産100なのに負債が150の場合ですね。この場合、資本は▲50となり、50の債務超過、ということになります。経営状況的には、かなりよろしくない状態です。資産を全部お金にしても負債を返せないわけですから。

 

さて、借金がいくらあるのかはどこを見ればよいかというと、右側、負債の部を見ればわかります。借入金が出てますね。借入金は短期と長期に分けられて記載されていますので、それを足したものが借入額となります。他、社債というものがあればそれも借入です。それを全部たせば借入が全部でいくらあるかがわかりますね。

 

はい、これでいくら借入があるのかがわかりました。

 

でこれが返せる金額なのかどうか、気になりますね。

 

返せるかどうか、ということは、つまり、返すためのお金を会社が生み出せているかどうかを知らねばなりません。

 

それは何を見ればいいかというと、P/Lです。損益計算書ですね。

損益計算書は、以下のような感じで構成されています。

 

売上、売上原価、売上総利益(俗に言う粗利)、販管費、営業利益、営業外利益、営業外費用、経常利益、特別利益、特別損失、税引前当期利益、法人税等、税引後当期利益。

 

売上があって、原価があって、粗利があって販管費を引けば営業利益です。簡単ですね。

 

ここで最後の税引後当期利益を見れば、いくら稼いだか、言い換えれば会社が返済する力があるかがわかると思った方、残念ながらそれは早合点です。

 

というのも、いわゆる「利益が出た」ということと、「いくら儲かった」こととは違うんですね。

 

それはなぜかといいますと、

 

P/Lの費用には減価償却費とか○○引当金繰入とか実際にお金が出て行かない費用項目が入っているからですね。同じように○○引当金戻入とか実際にお金が入ってこない利益項目もあるのです。なので、P/L上の○○利益が「いくら儲けた」と同じことにはならないんです。

 

なので、税引き後当期利益からこのお金の出入りを伴わない費用項目を戻しこんででた数値が実際の儲け額、事業を1年間運営して残ったキャッシュということになりますね。

 

これであなたの継ごうとしている会社が1年間でどれだけキャッシュを生み出せるかがわかりました。ついては1年間で返済できる限界額もわかりましたね。

 

■有利子負債対キャッシュフロー倍率

 

さて、いくら借りていて、いくら儲けているかがわかりましたので、ここで簡単な割り算をしてみましょう。

 

借入れ総額÷生み出したキャッシュ、はいくつになるでしょうか。

 

たとえば、1億円借入れがあって、生み出すキャッシュが1000万円ですと、

1億円/1000万円で10、10倍ですね。

 

これを有利子負債対キャッシュフロー倍率などといったりします。この倍率が1倍なら1年で返せる借入額、5倍なら5年、10倍なら10年ということになりますね。

 

1000万円というのは年あたりの額ですから、この10は10倍ということになります。

つまり、この会社にとって1億円とは10年で返済できる借入額だ、ということですね。

 

長期借入れの返済期間はかなり長くて10年、普通は5年~7年ですから、CF倍率が10倍とかですと、通常約定通りには返せないような財務状態にあると言えちゃいます。

言い換えれば、借りた当時の経営体力はすでにもうない、ということですね。

 

となるとかなり経営にテコ入れしなければならない状況かもしれません。

手許現金資金が薄ければ、倒産の目もありえます。

 

銀行から新規の融資も得られづらい状況です。

普通は貸してくれないでしょう。なので、新規の設備投資資金は自己資金で賄わなければならないかもしれません。自己資金が薄ければ、設備投資や開発のための資金が不足し、将来の事業投資がままならない状況となることが予想されます。

 

支払猶予や返済期間の延長等リスケジュールなども考慮しないといけない状況であれば、再生計画、経営改善計画なども作成せねばなりません。

 

財務諸表を知ることで、つまりは、連帯保証を引き継ぐリスクはそれ相応にある、ということがわかるわけですね。後を継ぐなら継ぐで、それを分かった上で継ぐ。

 

後を継ぐにはリスクを背負う覚悟が必要です。

そのリスクの大小、遠近は財務状況により様々です。

 

財務状態を知ることができれば、どのくらいの覚悟をしておかなければならないか、がわかります。また、継いだ後、何をしなければならないか、経営課題も明確に意識できるようになります。

 

後継者となる、またなることに悩まれている方は、決める前に会社の財務諸表を見てください。詳細に分析できる必要まではありませんが、ざっくりでも知ることができれば、のちのちの動きが変わってきます。

 

最低でも総借入額と儲け額は自分のためにも把握しておきましょう。

 

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問題解決画像池田輝之

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