■リスケは根本の解決にはならない
昨今、行政の皆さんの努力により、中小企業の再生について公的支援の窓口が大きく広がりました。再生支援協議会しかり、再生支援センターしかり、ウン十億という予算をかけ、中小企業の再生を支援してくれています。
私が中小企業の再生コンサルティングに関わり始めた当時、企業再生というと、普通の人からはよくわからない、ちょっとコワイ、グレーな世界でした。企業再生コンサルというと乗っ取り屋と思われるくらい、世の中的な認知は低いものでした。銀行にいけば怪訝な目で見られましたし、弁護士でない民間のコンサルタントは同席さえ拒まれる程でした(今でもありますが)。
銀行は貸し剥がし、商工ローン業者はえげつない回収方法(臓器売って返せとかありましたね)をとっており、社会問題化していました。サラ金破産が増え、借金に関する自殺者も増加していました。バブル崩壊の最後の処理のタイミングでした。 我々のようなコンサルタントは、銀行等の債権者にいいように翻弄されていた中小企業経営者の支援にまわり、倒産を回避すべく、回収に走る銀行やサービサーとの交渉をバックアップしていました。
当時はまだバブル崩壊の影響が色濃く、過大な債務が問題の大半であったため、バランスシート上の改善が一番の再生方法でした。倒産回避さえできれば、少ないとはいえしっかり出ていた収益で事業は円滑に回っていきました。
あれから約10年。
世の中は変わりました。
バブル崩壊の残り香はもうほとんどありません。 過大債務の意味も、縮小する売上に対し相対的に債務が過大となっている、という意味に変わりました。
債権者も、金融円滑化法施行後は返済猶予に柔軟に対応されるようになりました。返済猶予を勝ち取るのに、昔のように債権者と丁々発止やりあうことはもうありません。
今年になり、円滑化法は終了しましたが、まだまだこの流れは変わりません。
実際のところはおかしな話なのですが、行政の監督方針上、お金を貸している当人の銀行が、返済を猶予してくれ、再生を支援してくれるという、今の環境です。本来であれば金貸し商売上、必死に(昔みたいに)回収しなければならない局面のはずですが、そのような話は聞きません。
実際、実抜(じつばつ)計画とか合実(ごうじつ)計画(詳細な内容はまた別途)とかいう内容に則り作成した返済計画書を出せば、ほとんど間違いなく返済を猶予してくれます。 しかも、この計画書自体を銀行さんが作ってくれることもあります。作成協力せよ、とのお達しです。
さらには、再生支援協議会や再生支援センターなど公的な相談窓口、仲介窓口が強化され、管理人員等人的資源の乏しい中小企業でも銀行等と交渉を行えるよう、行政的な支援も行われています。これで返済猶予できないならどうする?というくらい厚い支援体制です。
隔世の感があります。
しかし、ちょっと待ってください。
これは本当に再生なのでしょうか?再生しているのであれば、街場の景気はもっともっとよくなっているはずです。
資金不足による倒産は、返済猶予によって回避できたかもしれません。倒産による雇用の喪失も防げたかもしれません。しかし、それは返済を止めたからであって、お金の出る量を少なくすれば倒産が回避できるのは当然のことです。 キャッシュさえあればどんなに赤字だろうと会社は倒産しません。
解決しなければならない課題は、売上が収縮し相対的に過大債務になったことであり、下がった売上で返済資金を賄えない事です。資金繰りが一息ついてやれやれ、という感情になるのもわかりますが、実際のところが何も変わっていなければそれは再生とは言えないのではないでしょうか。
正直、出る量を少なくするのにも限界があります。給与や仕入代金を払わないわけにはいきません。銀行や行政が協力してくれるのはあくまで、資金の流出を減少させる、倒産回避です。倒産は免れるけれども、実をいうと本質的な問題は何も解決していません。現状よりも更に売上が減少すれば、返済猶予だけでは対処できない世界に入っていきます。
つまり、究極的に言えば、返済猶予はあくまで病気の進行をゆっくりとする、対症療法でしかないわけです。根本的な問題を解決、解消しなければ、売上減少や利益減少に至った問題を解決しない限りは、再生は間違いなくできません。
■答えは自分のなかにある
一方、問題を棚上げして、景気が戻るのを待つ、という戦略?もあるでしょう。
景気回復と資金減少とのチキンレースです。会社が潰れるか潰れないかは他人(世の中)次第という恐ろしいレースです。とてもではありませんが、採りえない戦略です。
そんな馬鹿な、と思われるかもしれませんが、実のところ、チキンレースに挑む(笑)経営者さんは結構いらっしゃいまして、私の経験上、半数以上の経営者さんはチキンレース好きに思えます。
さて、返済を猶予してもらうためには、再生計画や返済計画書の提出を銀行などから求められます。しかし、どんなに立派な計画書を作っても(誰かに作ってもらっても)、そんなものは一銭の儲けにも繋がりません。
計画書作成支援をしてお代を頂戴している商売をしていて言うのもなんですが、返済計画書など、債権者たる銀行の稟議用資料、返済猶予の免罪符としてありがたく使われるだけです。正直に言えば、だれも計画書通りに進むなど思っていません。
銀行側の大人の事情(債務者区分を落とさなくていいとかなんとか)に合わせてあげるだけのものです。誰の責任にもならぬよう、また、その場をやり過ごすための資料です。実際どうなのか、というよりも書類形式上に求められる内容になっていることのほうが重要な代物です。無論、作るだけではもったいないので、実際に活用されるのがベストですが。
じゃあどうすればいいんだ?というところですが、問題を発見し、解決すればいいのです。ただし、どんな問題でも、です。「聖域なき」改革です。誰か昔の総理大臣さんが仰っていましたね。それができなければいずれ間違いなく潰れます。
ガンを見つけて切除、撲滅すれば良い。切除できなければ負け。単純な話です。
とはいえ、まずはガンを見つけられるかが第一のハードルになります。見つからなければ切除も何も手の打ちようがありません。でも大丈夫、すぐに見つけられます。
あとはそれに対峙できる精神力があるかどうか。最後は気持ちです。
再生は、債権者との戦いではなく、自分(自社)との戦いです。問題は自分(自社)の中にあるのです。
今は多くの支援があり、これでも倒産しちゃうところはもうどうしましょう?というくらい恵まれた状況です。そのような再生への道筋、レールが敷かれている昨今、極端に言えば、倒産回避はもう誰でも為し得えます。そこに特別なノウハウなどありません。
行政主体で行われているものですから、その条件から内容まで全て公にされています。本で読み、ネットで調べ、必要書類を作り、お願いすればOKです。
事業譲渡、会社分割、第二会社、DDS、多少耳にされたこともあるでしょう。一般の方かすると魔法の呪文のようなこれらの言葉は、すべて倒産回避のテクニックを表すものであり、債務を切り離すテクニック論を意味します。倒産回避が困難だった時代の仇花のようなものですね。
倒産回避が難しいものでなくなった今、経営者に求められるのは、売上の増加です。コストは極限まで削減されている会社がほとんどで、更なる削減余地はもうほぼ無いと言っても過言ではありません。となれば売上を増やすしか収益を向上させる術はないわけです。
商売が時代に合わなければ、時代に合うものを作り出し、お金がなければないなりに独自のサービスやネットワークを構築し、ビジネスを創り出していく。そんな社長らしい行動力、実行力、企画力が必要な骨太の時代に入っています。
倒産回避ができた会社の経営者の方にはその次の意識、ポスト倒産回避の戦略を描いていただきたい。
まだまだ景気は厳しい状況が続いています。景気は下げ止まり、上向き傾向といいますが、中小企業に恩恵が及ぶのはまだまだ先のようです。しかし、中小企業でも頑張っているところは頑張っています。「日本でいちばん大切にしたい会社」という本でも紹介されていますが、小さくともしっかりと収益を出し、地域社会に貢献している会社が世の中にまだまだあります。
言い換えれば、会社が潰れる潰れないの話は景気の良し悪しではなく、やり方、考え方の問題、事はやりようであるということです。
経営者自身のため、従業員皆のため、地域社会のため、ポスト倒産回避の時代を乗り切り、再生・再活性化を果たしてもらいたいと切に願います。