経営者保証ガイドラインについて

■経営者保証ガイドラインとは

 

経営者保証に関するガイドラインは、経営者保証に関するガイドライン研究会によりとりまとめられ、2013年12月5日に公表された、保証制度に関し守るべきガイドラインです。

 

そもそも経営者保証に関するガイドライン研究会というのは、行政当局関与の下(日本商工会議所と全国銀行協会が共同して)設けられた、ガイドライン策定のための有識者会議です。

 

行政当局関与の下、ということですので、このガイドラインが策定・公表されたということは、行政当局の監督・所轄下にある銀行等はこのガイドラインを無視することが難しくなります。

 

さらに言えば、全国銀行協会が策定に関わっている体となっている以上、銀行が自ら策定したこのガイドラインに従わない、 ということはあり得ない構造となっています。

 

政策上の重要度という意味でも、安倍内閣で示された日本再興戦略において、新事業を創出し、開・廃業率10%台を目指すための施策として、当該ガイドラインがあげられていることからも、重要性がわかります。

 

さて、このガイドラインは平成26年2月1日からの適用になります。

 

適用に際して、金融機関等によるガイドラインの積極活用を促したい金融庁は早速、金融機関に対する監督指針と金融検査マニュアルをこのガイドライン に合うよう変更する案を公表しました。一応、1月27日までパブリック・コメントの募集期間となっていますが、余程のことがなければ原案のままでしょう。

 

この監督指針と金融検査マニュアルというのは、金融庁が管轄下の金融機関を監督したり検査したりする際の、文字通り、指針でありマニュアルです。

 

銀行などの金融業務は許認可業務です。金融業をするなら金融庁の許可を得なければなりません。その許可を取り消すことができるのもまた金融庁です。 ですので、この監督指針と金融検査マニュアルは、金融の仕事をする上では外せないものです。たまにろくすっぽわかっていない、勉強不足の行員がいたりする こともありますが、こういう輩はその銀行にとって相当なリスクですね(苦笑)。

 

これから、変更された監督指針やマニュアル、さらにはガイドラインそのものについて見ていきたいと思います。

 

・今後、経営者保証はどうなっていくのか?

・保証債務履行時に資産を残せるようになるのか?

 

ポイントはこの2つでしょうか。今、保証している経営者さんも、これからお金を借りようという方は気になるところですよね。

 

内容のボリューム的にはガイドライン>監督指針>マニュアルということになります。詳細に詰めていくとかなり読み応えがある感じになってしまい、逆によくわからないことにもなりかねないので、今回はざっくりと概要的なところを把握していくことにしたいと思います。

 

 

■監督指針と金融検査マニュアルの変更点

 

 

まず始めにご紹介するのは、監督指針に記載されている、このガイドラインに沿うよう変更する意義、なんのためにガイドラインに沿って変更したのか、というところ。これを読めばガイドライン自体の意義もわかりことになりますので、一挙両得です。

 

III-9―1 意義

中小企業・小規模事業者等(以下「中小企業」という。)の経営者による個人保証(以下「経営者保証」という。)には、中小企業の経営への規律付けや信用補完として資金調達の円滑化に寄与する面がある一方、経営者による思い切った事業展開や創業を志す者の起業への取組み、保証後において経営が窮境に陥った場合における早期の事業再生を阻害する要因となっているなど、企業の活力を阻害する面もあり、経営者保証の契約時及び履行時等において様々な課題が存在する。こうした状況に鑑み、中小企業の経営者保証に関する中小企業、経営者及び金融機関による対応についての自主的自律的な準則として「経営者保証に関するガイドライン」(平成 25 年 12 月 5 日「経営者保証に関するガイドライン研究会」により公表。以下「ガイドライン」という。)が定められた。 このガイドラインは、経営者保証における合理的な保証契約の在り方等を示すとともに主たる債務の整理局面における保証債務の整理を公正かつ迅速に行うための準則であり、中小企業団体及び金融機関団体の関係者が中立公平な学識経験者、専門家等と共に協議を重ねて策定したものであって、主債務者、保証人及び対象債権者によって、自発的に尊重され、遵守されることが期待されている。金融機関においては、経営者保証に関し、ガイドラインの趣旨や内容を十分に踏まえた適切な対応を行うことにより、ガイドラインを融資慣行として浸透・定着させていくことが求められている。

 

要約すると、

 

「連帯保証は資金調達時の信用補完には役立つけれども、失敗したときの代償が大き過ぎ、起業マインドや再生を妨げたりする弊害もある。更には経営の引継など事業承継についても足かせとなっている。ついては、連帯保証に頼る融資慣行を改めよ。」

 

ということですね。

 

指針上は「求められている」なんてモヤっとした言葉になっていますが、つまりは、「やりなさい」という意味ですね。もっというと、金融庁が金融機関に変化を求めているわけです。

 

で、どのような変化、対応を金融庁は銀行に求めているかというと、以下。

 

III-9―2 主な着眼点

(1)経営陣は、ガイドラインを尊重・遵守する重要性を認識し、主導性を十分に発揮して、経営者保証への対応方針を明確化に定めているか。また、ガイドラインに示された経営者保証の準則を始めとして、以下のような事項について職員への周知徹底を図っているか。

①経営者保証に依存しない融資の一層の促進(法人と経営者との関係の明確な区分・分離が図られている等の場合における、経営者保証を求めない可能性等の検討を含む。)

②経営者保証の契約時の対応(適切な保証金額の設定を含む。)

③既存保証契約の適切な見直し(事業承継時の対応を含む。)

④保証債務の整理に関する対応(経営者の経営責任の在り方、残存資産の範囲及び保証債務の一部履行後に残存する保証債務の取扱いを含む。)

⑤その他(ガイドラインにより債務整理を行った保証人に関する情報の取扱いを含む。)

(2)ガイドラインに基づく対応を適切に行うための社内規程やマニュアル、契約書の整備、本部による営業店支援態勢の整備等、必要な態勢の整備に努めているか。

(3)主債務者、保証人からの経営者保証に関する相談に対して、適切に対応できる態勢が整備されているか。

(4)停止条件又は解除条件付保証契約、ABL等の経営者保証の機能を代替する融資手法のメニューの充実及び顧客への周知に努めているか。

(5)主債務者たる中小企業等から資金調達の要請を受けた場合には、当該企業の経営状況等を分析した上で、法人個人の一体性の解消等が図られているか、あるいは、解消を図ろうとしているかを検証するとともに、検証の結果、一体性の解消が図られている等と認められる場合は、経営者保証を求めない可能性等を債務者の意向も踏まえた上で検討する態勢が整備されているか。

(6)保証債務の整理に当たっては、ガイドラインの趣旨を尊重し、関係する他の金融機関、外部専門家(公認会計士、税理士、弁護士等)及び外部機関(中小企業再生支援協議会等)と十分連携・協力するよう努めているか。

(7)定期的かつ必要に応じ、内部監査等を実施することにより、ガイドラインに基づく対応が適切に行われていることを確認しているか。また、当該監査等の結果を踏まえ、必要に応じて態勢の改善・充実を図るなど、監査等を有効に活用する態勢が整備されているか。

 

つまりはガイドラインを守ることと、経営者保証に変わる新たな融資手法を開発しないとだめよ、と言っています。

 

それができないときには以下のお仕置きが待っています。

 

II-10―3 監督手法・対応

金融機関による上記の取組みについては、「主債務者、保証人及び対象債権者がガイドラインに基づく対応に誠実に協力することによって継続的かつ良好な信頼関係が構築・強化されるとともに、各ライフステージにおける中小企業や創業を志す者の取組意欲の増進が図られ、ひいては中小企業金融の実務の円滑化を通じて中小企業等の活力が一層引き出され、日本経済の活性化に資するよう、金融機関等による積極的な活用を通じて、本ガイドラインが融資慣行として浸透・定着していくことが重要」との政策趣旨に鑑み、適切に取り組む必要がある。 こうした取組態勢や取組状況を踏まえ、監督上の対応を検討することとし、内部管理態勢の実効性等に疑義が生じた場合には、必要に応じ、報告(法第 24 条に基づく報告を含む。)を求めて検証し、業務運営の適切性、健全性に問題があると認められれば、法第 24 条に基づき報告を求め、又は、重大な問題があると認められる場合には、法第 26 条に基づき業務改善命令を発出するものとする。

 

最近では青色のメガバンクさんが業務改善命令を受けましたね。銀行さんにとってこれはかなり嫌なことらしいです。実害はさほどあるわけではないのでなんでそんなに気にするのか?と不思議に思ったりもいたしますが、要は「出世に響く」ということのようですね。自分の銀行がつぶれない前提でいうと、あとは内部的な競争しかないわけですから、マイナスになるようなことをできるだけ避けたいという意識が働くのは仕方のないところかもしれませんね。いつつぶれてもおかしくない会社で派閥争いがあったりすることもままありますが。

 

さて、金融検査マニュアルの変更はどうなっているか、といいますと、債務者区分のところ、代表者等との一体性の項目について、ただし書きが追加変更されています。で、どういうものかといいますと、

 

「ただし、代表者等との一体性の解消等が図られている、あるいは、解消等を図ろうとしている企業の取扱いについては、「経営者保証に関するガイドライン」(平成25年12月5日経営者保証に関するガイドライン研究会)を踏まえる必要があることにも留意する。」

 

ガイドライン守れよ、というものですね。

これだけだとよくわかりませんが、文の流れでいいますと、

 

中小は企業と代表者がほぼ一体

→債務者区分の判断に当たっては(財務資産内容について)次の点に留意しなさい

→ただし書き

→なお書き(代表者には家族なども含まれるよ)

→次の点いろいろ

 

となっておりまして、債務者区分の判断にあたり留意する事項が増えた、一体性解消を図る企業はガイドラインを踏まえるということを留意せよ、ということになります。

 

代表者等との一体性の項目というのはどんなものかといいますと、中小企業というのは代表者と会社の間でその財産の公私の別がつきづらいこともあるので、財務内容を額面通りでなく、代表者からの借入などは資本と考えてもいいですよ、代表者の資産は会社の資産と考えてもいいですよ、などといったものです。意地悪な言い方をすれば、「債務超過にならないように下駄履かせてもいいよ」というところでしょうか。

 

以上が監督指針と金融検査マニュアルのざっくりとした変更内容です。

 

ガイドライン守りなさいよ、という内容になっているのがわかったところで、そのガイドラインそのものがどういうものとなっているのか、見ていきたいと思います。

 

 

■保証に依存しない融資方法や保証の見直し

 

経営者保証に関するガイドラインは先に申しました通り、昨年平成25年12月5日に公表され、今年平成26年2月1日より適用になる、経営者保証の在り方等を示すとともに保証債務の整理を迅速公正に行うための準則です。

 

準則ですので法的拘束力はありませんが、金融機関もこのガイドライン策定に関わっている以上、自分たちの決めた事を守らないとお上の厳しいお沙汰があるのは火を見るより明らかです。つまり、保証周りはこのガイドラインに従う以外なし、ということになります。

 

で、その内容はといいますと、大きく分けて4つ、

 

1.経営者保証に依存しない融資の一層の促進

2.経営者保証の契約時の対象債権者の対応

3.既存の保証契約の適切な見直し

4.保証債務の整理

 

です。

 

そもそもですが、このガイドラインが適用される保証とは、以下のようなものです。

 

・中小企業であること

・保証人が経営者等の個人であること

・主債務者と保証人ともに弁済について誠実かつ財産状況を適時適切に開示していること

・反社会的勢力でないこと

 

やくざでない、まじめな中小企業の経営者が対象、ということですね。

ほぼ皆さん適用の範囲でしょう。

 

さて、個別内容を見ていきますと、まず1.の「経営者保証に依存しない融資の一層の促進」ですが、これは債務者側、債権者双方に求められているものがあります。

 

それは其々何かと言いますと、

 

債務者については、保証を提供しないで融資を希望する場合に必要なもの(公私の分離区分、財務基盤強化、財務状況の正確な把握と適正開示)、債権者側については、融資手法メニュー(停止条件付保証契約やABLなど)の充実を図ることが求められています。

 

また、保証を求めない可能性についても検討することとなっています。 保証を求めない可能性について検討とはややこしい表現ですが、そういう可能性があるのは良いことです。

 

要件として、公私の区別がしっかりついており、借入返済が法人のみで可能であれば、という記載があるので、条件に当て嵌まる場合は保証なしでの融資も検討してくれるはずです。

実際のところは難しいかな、と予想されますが、チャレンジされても良いかもしれません。

 

次に「経営者保証の契約時の対象債権者の対応」について見ていきます。

 

ここでは、「いろいろ(保証なしで可能か)検討してみたけど無理でした。」というパターンの場合に債権者(貸す側)がすべき対応内容について記載されています。

 

具体的内容としては、

 

・必要性や履行の範囲、解消の可能性についてきちんと説明すること

・適切な保証金額を設定すること

 

となっています。

 

適切な保証金額の設定についてはまだ後がありまして、保証債務の整理について、このガイドラインの趣旨に沿った対応はどのようなものなのか、も載っています。

 

重要なので原文そのままご紹介します。

 

イ)保証債務の履行請求額は、期限の利益を喪失した日等の一定の基準日における保証人の資産の範囲内とし、基準日以降に発生する保証人の収入を含まない。

ロ)保証人が保証履行時の資産の状況を表明保証し、その適正性について、対象債権者からの求めに応じ、保証人の債務整理を支援する専門家(弁護士、公認会計士、税理士等の専門家であって、全ての対象債権者がその適格性を認めるものをいう。以下「支援専門家」という。)の確認を受けた場合において、その状況に相違があったときには、融資慣行等に基づく保証債務の額が復活することを条件として、主たる債務者と対象債権者の双方の合意に基づき、保証の履行請求額を履行請求時の保証人の資産の範囲内とする。 また、対象債権者は、同様の観点から、主たる債務者に対する金融債権の保全のために、物的担保等の経営者保証以外の手段が用いられている場合には、経営者保証の範囲を当該手段による保全の確実性が認められない部分に限定するなど、適切な保証金額の設定に努める。

 

いかがでしょうか。 小難しくは書いてありますが、保証履行タイミングを定めてそれ以上は保証しないような保証契約内容にしなさい、担保がある場合はそれで保全できない範囲のみの保証としてね、ということですね。

 

というと不動産担保融資で融資金が担保保全範囲内であれば個人保証要らない、ということになりますね。そもそも個人の資力などたかがしれているので合理的な方針かと思います。

 

重要なポイントが次に控えています。 「既存の保証契約の適切な見直し」です。

果たしてこんなことができるのか!?興味深いですが、まず、債務者と保証人について条件があります。

 

「主たる債務者及び保証人は、既存の保証契約の解除等の申入れを対象債権者に行うに先立ち、第4項(1)に掲げる経営状況を将来に亘って維持するよう努めることとする。」

 

将来にわたって維持するよう努めるって、言語明瞭意味不明の世界ですね。

具体的なことはよくわからないですけれもまず、第4項(1)の状況であるのが大前提ですね。

 

第4項(1)とはどういうものかといいますと、「経営者保証に依存しない融資の一層の促進」における「主たる債務者及び保証人おける対応」で、具体的には、公私の分離・区分、財務基盤強化、財務状況の適正開示と透明性確保です。

 

財務基盤強化とありますが、これがどのような財務状況のことを指すのか、本文には記載がないのですね。そこで想定問答集を紐解いてみますと、ありました。

 

Q.4(1)②について、「財務状況及び経営成績の改善を通じた返済能力の向上等により信用力を強化する」とありますが、具体的にはどのような財務状況が期待されているのでしょうか。

 

A.経営者個人の資産を債権保全の手段として確保しなくても、法人のみの資産・収益力 で借入返済が可能と判断し得る財務状況が期待されています。例えば、以下のような状況が考えられます。

 

➢業績が堅調で十分な利益(キャッシュフロー)を確保しており、内部留保も十分であること

➢業績はやや不安定ではあるものの、業況の下振れリスクを勘案しても、内部留保が潤 沢で借入金全額の返済が可能と判断し得ること

➢内部留保は潤沢とは言えないものの、好業績が続いており、今後も借入を順調に返済し得るだけの利益(キャッシュフロー)を確保する可能性が高いこと

 

絶対潰れそうにないような財務内容だったり、潤沢とはいわないまでも将来性満点、みたいな特殊パターンの場合は保証人無くてもOKと、まあ中小企業にはあまりないパターンの場合のみ、保証契約の見直しが可能のようです。

 

そもそも保証債務を履行する可能性がほぼゼロなわけですから、逆に保証を外すという要望もないものと思いますが。

 

ほか、団塊世代が引退を迎える時期にさしかかっている昨今、気になるのが事業承継時の保証債務の後継者への引継問題です。保証協会付融資は代表者の個人保証が絶対ですからね。事業承継で代表が替わると問題になるのがこれです。

 

実務的には両代表(代表取締役会長&代表取締役社長のコンビ)とかで対応してしまいますが、なにか解決策はあるのでしょうか? そのような目線でガイドラインを眺めますと、特に無いように見受けられます。引き継ぐのは大前提で変わりはないようですね。

 

むしろ、前経営者の保証解除について明記がありまして、「債権者は、前経営者から保証契約の解除を求められた場合には、(略)適切に判断することとする。」となっています。保証解除しても問題ないと金融機関が考えた場合は外せます、ということと読みました。となると、従前となんら変わりがないことになりますね。

 

そして、最後「保証債務の整理」について。

 

 

■保証債務の整理

 

保証債務の整理について、ガイドラインではまず大きく3つに記載が分かれています。

第一に、対象となる保証人について。

第二に、保証債務の整理の手続きについて。

そして第三に、保証債務の整理を図る場合の対応について。

整理時の対応についてはかなりしっかりと記載されています。

 

まずはガイドラインに基づく保証債務の整理の対象となる保証人について見ていきましょう。ついては以下3つの要件が書かれています。

 

・主たる債務者が法的債務整理手続き開始の申立て、または準則型私的整理手続の申立てを行ったこと。

・破産よりも多くの回収が見込まれる経済合理性があること。

・免責不許可事由ないこと。

 

これが満たせないと対象となりません。

さて、満たされるとなれば、次は保証債務の整理の手続きです。

 

この手続きについては2つの方向性から書かれています。

一つは、主債務と保証債務を一体整理する場合、もう一つは、一体整理しない場合です。

 

前者について、主たる債務の整理を準則型私的整理を利用する場合は保証債務も同様に、原則として準則型私的整理手続を利用することになります。後者については、原則として準則型私的整理手続を利用することとされています。

 

なるべく法的な整理をしないよう、信用棄損の負担を減らそうという意図が見えますね。

 

さて、最後の最後、保証債務の整理を図る場合の対応ですが、対象債権者は「合理的な不同意事由」が無い限り、債務整理手続きの成立に向けて誠実に対応する。」となっています。ちなみに「合理的な不同意事由」とはどのようなものかと言うと、想定問答集によれば、「保証人が、ガイドライン第7項(1)の適格要件を充足しない、一時停止等の要請後に無断で財産を処分した、必要な情報開示を行わないなどの事由により、債務整理手続の円滑な実施が困難な場合をいいます。」だそうです。

 

そして、対応の方針に関しては以下のとおり、記載があります。

 

1.一時停止等の要請への対応

2.経営者の経営責任の在り方

3.保証債務の履行基準(残存資産の範囲)

4.保証債務の弁済計画

5.保証債務の一部履行後に残存する保証債務の取扱い

 

以上5項目だけで数ページ要してしまうボリュームなので、それぞれできるかぎり掻い摘んでその内容をお伝えすることにいたしましょう。

 

まず1.一時停止等の要請対応について。

一時停止や返済猶予の要請には誠実かつ柔軟に対応するよう努めること、とあります。

 

要件は、

 

・債務者、保証人、支援専門家が連名した書面(全債権者の同意がある場合不要、保証債務のみの整理は保証人と支援専門家の連名で可)

・全債権者に同時に行うこと。

・誠実に対応できると判断されること。

 

となっています。

 

次に2.経営者の経営責任の在り方についてですが、準則型私的整理手続きにより一体整理を図る場合、一律かつ形式的に経営者の交代を求めないこととされています。

 

法的整理手続きの考え方との整合性に留意、ともありますが、責任論は債権者からとかくいわれがちなことですので、こうしてはっきりと一律かつ形式的には求めない、と明記されるのは画期的かと思います。これにより再生局面における再生スキーム導入に関する経営者の心理的・感情的ネックや、経営者交代による信用棄損を避けられるのはありがたいことです。

 

しかし、経営者交代を求めないについて検討することとして、窮境原因に対する帰責性、経営資質や信頼性、経営者の交代が再生計画に与える影響度、金融支援の内容、があげられています。経営者に大きな問題がなく、リスケ程度であるならば経営者交代は求めない、ということになりますでしょうか。となると、従前とあまり変わらないかもしれませんね。

 

また、私的整理時に経営者が引き続き経営に携わる場合は、保証債務の履行や役員報酬の減額、株主権の全部または一部放棄(これは厳しい)、退任など責任を取らねばならぬようです。

 

新聞紙上でもよく報道されている、保証人でも全部は取られない的なお話が3.の保証債務の履行基準(残存資産の範囲)ですね。

 

もし失敗してしまった場合、家から何から財産すべて持って行かれるのが経営者保証人のイメージですが、今回のガイドラインで、これが多少手元に残せる余地が出てきました。

 

ただ、債権者が決めることなので、手元に残って当然的思考では逆に何も残らないことになるでしょう。なぜなら、「誠実さ」がキーになるからです。「あまりに丸裸にするのはさすがに人の道に反するので、多少お目こぼしを与えよう。」という意味合いが強いようですからね。本文ではこんな表記となっています。

 

経営者たる保証人による早期の事業再生等の着手の決断について、主たる債務者の事業再生の実効性の向上等に資するものとして、対象債権者としても一定の経済合理性が認められる場合には、対象債権者は、破産手続における自由財産の考え方を踏まえつつ、経営者の安定した事業継続、事業清算後の新たな事業の開始等(以下「事業継続等」という。)のため、一定期間(当該期間の判断においては、雇用保険の給付期間の考え方等を参考とする。)の生計費(当該費用の判断においては、1月当たりの標準的な世帯の必要生計費として民事執行法施行令で定める額を参考とする。)に相当する額や華美でない自宅等(ただし主たる債務者の債務整理が再生型手続の場合には、破産手続等の清算型手続に至らなかったことによる対象債権者の回収見込額の増加額、又は主たる債務者の債務整理が清算型手続の場合には、当該手続に早期に着手したことによる、保有資産等の劣化防止に伴う回収見込額の増加額、について合理的に見積もりが可能な場合は当該回収見込額の増加額を上限とする。)、当該経営者たる保証人(早期の事業再生等の着手の決断に寄与した経営者以外の保証人がある場合にはそれを含む。)の残存資産に含めることを検討することとする。ただし、本項(2)ロ)(←経営者に帰責性あり)の場合であって、主たる債務の整理手続の終結後に保証債務の整理を開始したときにおける残存資産の範囲の決定については、この限りでない。また、主たる債務者の債務整理が再生型手続の場合で、本社、工場等、主たる債務者が実質的に事業を継続する上で最低限必要な資産が保証人の所有資産である場合は、原則として保証人が主たる債務者である法人に対して当該資産を譲渡し、当該法人の資産とすることにより、保証債務の返済原資から除外することとする。また、保証人が当該会社から譲渡の対価を得る場合には、原則として当該対価を保証債務の返済原資とした上で、上記ニ)の考え方に即して残存資産の範囲を決定するものとする。

 

ポイントは、

 

1.残存資産は一定期間の生計費と華美でない自宅等

2.あくまで事業再生を行う上で意味があり、かつ、私的債務整理の場合のみ

3.経営者所有の事業用資産は、会社に譲渡することにより保証債務の返済原資から外すことができる

4.自宅については、破産ではなく私的債務整理を選択したことによる増加回収額内に収まること

 

というところです。

 

先に債権者の意向次第とも書きましたが、留意点として債権者は真摯かつ柔軟に検討すべし、ともありますので、誠実にお願いすれば認めてくれるかもしれませんね。

 

そして生計費がいくらかという「現金」な話ですが、想定問答集では、1月当り33万円というのがひとつの基準になるようです。

 

一定期間の「一定」は雇用保険の給付期間が参考として記載されていますので、年齢に応じて90日~330日ということになりますね。

 

ただし、自宅を残した場合はこの33万円から住居費分を控除することになるようですので、お忘れなく。華美でない住宅の華美の定義は想定問答集にも具体的に記載がありません。私的整理による増加回収見込額という価額が線引きとなるでしょう。

 

保証債務の弁済計画については、その弁済計画案に盛り込むべき内容が以下のとおり列挙されています。

 

・ガイドラインを利用する理由

・財産の状況

・弁済計画(原則5年以内)

・資産換価処分の方針

・保証債務の減免、期限の猶予その他権利変更の内容

 

弁済計画が5年、というのがひっかかりますね。想定問答集では、個別事情により5年を超える期間の弁済計画を策定することも可能としていますが、関係者の合意がとれる前提となっていますので、簡単ではないかもしれません。

 

それと、保証人が保証債務の減免を要請する場合は、資産を処分して返済してもなお残る部分について免除を受けることを記載する、とありますので、いわば死ぬまで保証債務が残ってしまうという事態からは逃れることができそうです。

 

上記と似たような話ですが、5.保証債務の一部履行後に残存する保証債務の取扱いについては、基本免除、ということになるようです。債権者は免除要請を受けたら誠実に対応せよとの記載があります。ただし、要件としては、

 

・誠実に情報を開示して正確性について表明保証すること

・支援専門家が表明保証の適正性について確認し、債権者に報告すること

・保証人の資力を証明する必要な資料を提出すること

・弁済計画が経済合理性のあること

 

以上の内容があげられています。本文はもっと詳細に記載がありますが、ここではざっくりまとめてお見せしています。

 

以上がこのガイドラインの概要ということになります。概要としても結構なボリュームになりました。実際のガイドラインはA4で15ページほどのものなっています。日本商工会議所、全銀協どちらのホームページからも取得可能ですので、ご興味あればダウンロードされてご覧いただければと思います。

 

 

■まとめ

 

2014年2月1日からいよいよ適用になる経営者保証に関するガイドラインについて、お話してきました。時間の許さない方向けに、これまでの内容を以下ぎゅっとまとめてみますので、ご参照いただければと思います。

 

【ポイント】

●既存の保証を外すのは難しい

●事業承継時に保証を引き継ぐのは変わらない

●個人保証のない融資は当面無い

●生計費や華美でない自宅は残せる可能性はある

●経営者交代を一律形式的に強制しない

●何につけ、公私の別、適正な情報開示が求められている

 

個人保証は事業再生や起業に際してネックとなっているのは確かです。

個人保証の融資慣行を無くすため、金融機関に対しては個人保証に頼らない新たな融資手法が求められています。反面、中小企業経営者の側にも財務状況の正確な把握や公私の区別、資料の策定などが求められています。

 

しかし、財務状況がいくらきちんと把握できていて、しっかりと開示されたとしてもどこまでそれを信ずるか、というのは難しいところでしょう。

 

表明保証に適正性を付与といっても、付与した支援専門家を貸し手はどこまで信頼するのでしょうか? 中小企業は100%株主兼社長という所有と経営が分離されていないことが多いため、そもそもガバナンスが効いていない状態となっています。税理士等の支援専門家と呼ばれる人もどこまで自分を雇ってくれているワンマン社長に物申すことができるかという問題もあります。客観性が担保されない可能性も否めません。

 

金貸し(銀行)はシビアです。個人保証についてはそう簡単には無くならないと思います。逆に考えると、個人保証が要らないくらい(良好な財務状態)のところにしか融資をしなくなるのではないかと危惧しています。

 

再生時の保証債務返済については、画期的な指針が示されました。

自宅を残せるというのは事業再生にとって非常に(特に地方では)プラスです。

 

とはいえ、現在でも再生計画を認めていただければ、期限の利益を喪失した状況にはなりません。ついては、保証債務の履行を求められることもない状況です。 ということは、このガイドラインが2月から適用されても、実務上の対応はあまり変わらないかもしれません。

 

一方、廃業時の保証履行に関しては特段の記載はありませんでした。

 

再生が困難な企業に関する経営者保証についても、残存資産をこのガイドラインと同様に認めていただけると企業のライフサイクルが正常に回転し、新陳代謝が高まることに繋がると考えます。団塊起業世代が引退のタイミングにある昨今、行政の皆様にはぜひ検討していただきたいところですね。

 

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