先日、関東経済産業局さん主催で今年の中小企業白書の説明会がありました。
私も参加してまいりましたので、今回は中小企業に関する説明内容について、まとめて皆さんにお見せしたいと思います。
経営者の方々にも将来の事業動向を考える上で有用な情報かと思いますので、ぜひ御覧ください。
■中小企業数、収益状況の動向
(1)中小企業の数
・中小企業の数は381万社で、うち中規模企業は56万社、小規模事業者は325万社。
中小企業全体の減少ペースは緩やかとなった。
・倒産件数は7年連続で減少し、25年ぶりの低水準。休廃業、解散件数はいまだ高水準にあるもの、2年連続の減少。
・2012年から2014年の中小企業数の変化の内訳を見ると、中規模企業では開業が廃業を上回り、小規模企業では廃業が開業を上回っている。
・2012年から2014年の中小企業数の変化の内訳を業種別に見ると、小規模小売業の減少幅が特に大きい。また、地域別では、下位5道府県(静岡、北海道、愛知、新潟、大阪)全てで小規模事業者が3000社以上減少。
・中小企業数の業種別変化(2012→2014)
医療福祉+1.5万社
卸売業+0.2万社
その他+0.04万社
その他サービス業▲0.05万社
不動産業、物品賃貸業▲0.7万社
建設業▲1.2万社
製造業▲1.6万社
小売業▲2.6万社
(2)小規模事業者の数
・小規模事業者の約9.1万社減少の要因は、個人事業者の減少。法人数は減少せず。
・「小売業」「宿泊業、飲食サービス業」「医療、福祉業」等で規模の拡大・縮小がおこっている。
・2014年では、自営業者の高齢化が一段と加速。年齢階級別では70代が最多で約80万人となっている。
自営業者の離職理由は
「病気、高齢のため(40.4%)」
「事業不振や先行き不安(12.3%)」
「会社倒産、事業所閉鎖のため(8.1%)」
となっている。
(3)企業収益と景況感
中小企業の経常利益は過去最高水準となり、景況感も改善傾向にあるが、売上高は伸び悩んでいる。
また、小規模事業者の業況は、持ち直し基調の中にも弱い動きが見られる。
(4)収益増加の背景
2009年から2015年にかけての経常利益の変化を要因別にみると、中小企業では、
(1)売上高の減少
(2)変動費の減少(原材料・エネルギー価格の低下等が背景の一つ)
(3)人件費の減少
がおもなものであった。
・2009年と2015年を比較した場合の経常利益の増加額
〈大企業〉
売上高要因 +2.0兆円
変動費要因 +2.2兆円
減価償却費 +1.3兆円
営業外損益 +1.1兆円
〈中小企業〉
売上高要因 ▲0.9兆円
変動費要因 +1.7兆円
人件費要因 +1.6兆円
減価償却費 +0.1兆円
営業外損益 +0.04兆円
(5)人手不足
全体の雇用者数が増加する中、中小企業の人件費は横ばい傾向で、規模の小さな企業で働く雇用者は減少している。結果、中小企業の有効求人数は大きく増加し、人手不足感が強まっている。
(6)設備投資
設備投資は大企業、中小企業ともに伸び悩む中、中小企業では、設備の不足感が生じており、設備の老朽化も進んでいる。こうした状況を踏まえれば、経常利益が過去最高水準にある今こそ、省力化・合理化や売上拡大等を通じて稼ぐ力を高める必要がある。
(7)中小企業の生産性
・中小企業の労働生産性の業種別平均は、大企業における業種別平均を下回っており、特にサービス業については、他業種と比較して労働生産性の平均水準が低い傾向にある。
・2013年のOECD加盟国の労働生産性を比較すると、日本は34カ国中22位だが、製造業に限ると10位となっている。
・こうした結果を受け、サービス産業の生産性向上が課題となっている。
・中小企業の中にも、生産性の高い稼げる企業は存在している。こうした企業は、成長投資に積極的に取り組んでおり、その投資行動や資金調達等の特徴について分析すると、設備投資やIT投資等に積極的で、一人あたりの賃金が高い傾向にある。
☆ひとこと
・倒産件数の逓減は景気の良化を示しています。一方、休廃業や解散は高止まりしており、社会的経済的価値のある企業が消滅していることは憂慮すべき事態と思います。
・第一次ベビーブーム世代が引退の時期にきています。小規模の職人社長的な経営者は引き継ぐ人もおらず、廃業にいたることが多いのでしょう。
・中小企業の利益が売上増ではなく、コストダウン(特に人件費)でなされていることがわかります。大企業と比べ減価償却費も小さく、設備投資も行えていないのが見えます。
■中小企業を取り巻く環境とIT投資
中小企業を取り巻く環境を概観すると、人口減少が進んでいるなか、ITの普及に伴い電子商取引市場が拡大。さらに近年では、訪日外客数が増加。また、我が国では、自然災害発生頻度が増加傾向にある。
(1)IT投資の現状・効果
自社ホームページを活用している中小企業は半数以上だが、売上拡大につながる電子商取引等の導入は遅れている。ITを活用している企業は活用していない企業と比べて、売上高及び売上高経常利益率の水準が高い。
(2)IT投資と業務実績の関係
〈売上高〉
IT投資あり 2,369M
IT投資なし 1,140M
〈売上高経常利益率〉
IT投資あり 3.0%
IT投資なし 2.7%
(3)IT投資の課題
中小企業の課題の中には、自社の経営状況の的確な把握等、IT活用が解決策となり得ると考えられるものもあるが、IT人材不足や効果がわからないこと等を背景にIT投資が進んでいない。また、必要なIT人材確保が進んでいない。
(4)高収益企業の取組
高収益企業は、付加価値向上のためのIT投資の効果を得ている。
そのために、従業員から意見を聴き、業務プロセスの改善や研修などの人材育成に取り組みながら、計画的にIT投資を行い、さらに投資の事後評価も実施している。
・IT投資の効果を得るために有意であった主な取組
業務プロセス・社内ルールの見直し(65.9%)
目的・ビジョンの明示(58.7%)
各事業部門、従業員からの声の収集(49.3%)
計画策定(48.5%)
社員教育研修の実施(37.6%)
■海外展開
(1)海外展開投資の現状・課題
国内市場が縮小し、また、海外の中間層・富裕層が増加する中。海外需要の獲得は重要。現状、海外展開を行う中小企業は、中期的に見れば増加傾向であるが、知識・ノウハウ不足や人材不足といった理由を背景に伸び悩んでいる。
(2)海外展開投資の効果
海外展開を行う企業は、売上の拡大、海外の新市場開拓、営業力・販売力の強化といった様々な効果を実感している。また、輸出する企業の方が労働生産性が高く、海外展開を行う企業は、国内従業者を増加させている傾向にある。
(3)高収益企業の取組
高収益企業は、マーケティングや計画策定を進め、外国人を含めた人材の確保・育成を行いつつ、モニタリングを通じてリスクにも備えながら、海外展開を行うことで売上の拡大等を達成している。
・外国人人材有無別に見た売上高
〈輸出〉
外国人人材あり 4,258M
外国人人材なし 2,805M
〈直接投資〉
外国人人材あり 5,394M
外国人人材なし 3,920M
〈インバウンド対応〉
外国人人材あり 3,756M
外国人人材なし 1,808M
■リスクマネジメント
(1)リスクへの対策の現状
自然災害の頻発やIT導入に伴う情報セキュリティの必要性の高まりにより、大企業はリスクへの対策を進めているが、中小企業におけるBCP策定率は15%と中小企業の取組は遅れている。
また、サプライチェーン維持のための代替調達についての検討が進んでいない企業が多い。
・情報セキュリティトラブルの被害額
〈全体〉
50万円未満 30.6%
50~200万円 4.4%
不明 9.1%
不発生 55.4%
〈売上高10億円以下〉
50万円未満 55.9%
50~200万円 8.8%
不明 2.9%
不発生 32.4%
(2)高収益企業の取組
稼げる中小企業は、リスクへの対策を行うことで、業務の効率化や人材育成、売上の拡大にもつなげている。平時の経営改善の一環として、積極的に取り組むことが必要。
☆ひとこと
そろばん→電卓→PC(エクセル)と変化したように、IT投資を怠ると時代に取り残されますね。
投資する・しないで、生産性の優劣が顕著になるでしょう。
■中小企業の成長を支える金融
(1)金融機関からの貸出状況
中小企業が成長投資を進めるためには、資金供給が必要。
現状、中小企業の資金繰りや中小企業に対する金融機関の貸出態度は改善傾向にある一方で、金融機関から中小企業への貸出は、大企業ほど増えていない。
(2)金融機関借入が増加しなかった背景
近年、大企業は内部留保のみならず、金融機関借入、増資等を活用し、海外を中心とした関係会社への投資等を進めた。一方、中小企業では、金融機関借入は増加せず、設備投資等も小幅な増加に留まった。
・2005年→2014年の資産・負債の変化
〈固定資産〉
中小企業 +4.4%
大企業 ▲6.1%
〈投資等〉
中小企業 +9.0%
大企業 +68.1%
〈借入〉
中小企業 ▲3.1%
大企業 +21.5%
(3)無借金企業の現状と課題
金融機関借入のない無借金企業が増加傾向だが、無借金企業は、ある程度借入れのある企業よりも利益率が低くなる傾向。
それは、無借金企業が投資にに積極的でないことや、金融機関を含めた外部との関係が希薄であることによるものと考えられ、こうした企業も賢く資金を調達し、成長に向けた投資を検討すべき。
(4)資金調達手法
中小企業にとっては、金融機関は最大の資金調達先。
金融機関は今後、事業性評価に基づく融資に重点を置く考えであるが、現状は財務内容、会社や経営者の資産余力を評価している。
事業性評価に基づく融資を実現するためには、まずは企業が今後の事業計画等を積極的に伝えていくことが重要である。
・金融機関融資手法志向の変化(現状→将来)
事業性評価に基づく融資 60%→61%
売掛債権の流動化による融資 12%→50%
動産担保による融資 13%→49%
知的財産担保による融資 2%→41%
代表者等の保証による融資 39%→8%
信用保証協会の保証付融資 86%→25%
不動産を担保とする融資 51%→10%
(5)支援体制の強化
事業性評価に積極的な金融機関は、企業のニーズに応えるため、外部機関との連携にも取り組み、貸出案件の拡大等の効果を得ている。金融機関は、中小企業から相談を受けることが多い士業等専門家等の関係者と連携を深め、事業性評価に基づく融資や、企業の成長に向けた非金融面での支援を実施していくことが重要。
■中小企業の経営力
(1)収益性
稼げる中小企業の特徴をみるため、中小企業を利益率と自己資本比率の観点から分類、分析すると、利益率では中小企業の二極化が進んでいる。
・分類別売上高経常利益率
9.35%(自己資本・利益率ともに大企業の平均より高いグループ)
8.16%(自己資本は劣るが、利益率は大企業より高いグループ)
1.41%(利益率は劣るが、自己資本は大企業より高いグループ)
1.12%(自己資本・利益率ともの大企業の平均に劣るグループ)
(2)投資
実際の投資行動に着目すると、高収益企業は積極的に投資しており、情報セキュリティなどのリスクへの対応も進んでいるが、低収益企業には投資に保守的な傾向が見られる。
(3)経営者の特徴1
企業風土については、高収益企業の方が、計画的かつ積極的に新たな試みに挑戦する傾向がある。
また、投資行動を決定する経営者の年齢に着目すると、中小企業の経営者は高齢化してきており、新陳代謝が進んでいないことがわかる。(過去20年間で経営者年齢の山が47歳から66歳へ移動)
(4)経営者の特徴2
経営者年齢が上がるほど、投資意欲の低下やリスク回避性向が高まる。
実際に、経営者が交代した企業の方が、わずかながら利益率を向上させていることから、計画的な事業承継が重要。
・経営者の年代別意識
〈積極的に投資していく必要がある〉
49歳 以下 32%
50~59歳以下 27%
60~69歳以下 26%
70歳 以上 21%
〈リスク伴ってまで成長したくない〉
49歳 以下 16%
50~59歳以下 18%
60~69歳以下 21%
70歳 以上 25%
〈自社の成長は市場の成長に依存している〉
49歳 以下 29%
50~59歳以下 29%
60~69歳以下 32%
70歳 以上 38%
(5)長寿企業
中小企業は創業後、20年後には約半数の企業が退出しており、創業後の淘汰の厳しさが伺える。
他方で、市場の環境変化に対応しながら、長期的に経営が安定している企業も存在しており、変化に対応していく柔軟な事業転換や新規市場の開拓が重要である。
☆ひとこと
・たしかに借金をしないと安全性は高まる反面、成長スピードに劣るということはあります。ただ、利益率が低い傾向というのは無借金とは関係がないように思えます。
・自己資本は利益率の高低に関係なく、利益率の良し悪しが二極化しているということでしょう。
・経営者の高齢化も問題ではあるが、それよりも事業意欲の低下や、積極性に欠く経営姿勢のほうが問題。
皆様、どのような印象でしたでしょうか。
全面的な利益上昇のところ、大企業の売上が伸びている反面、中小企業の売上が減少しているのは驚くと同時に、現場感としては納得のところでした。
どんなに景気が良いときでも、潰れる会社は必ず存在します。
やはり、自社の強みを磨き(無ければ作り)、存在価値を高めていく努力がなければ淘汰されるのは自然の摂理。
(お客を)求める企業から、(お客から)求められる企業にならないといけませんね。