取締役は会社から委任を受け、業務を執行する立場であり、会社のために忠実に職務を行わなければならないとされています。ゆえに、会社と利益が相反する取引を個人がすることや、会社の事業と競業する取引をすることは原則していけない行為となります。
取締役会の事前承認なく利益相反取引をした場合は、取締役は任務を怠ったものとみなされます。会社法では、取締役が任務を怠ったときは、会社の被った損害を取締役個人が代わりに払わなければならない、とされています(423条)。
そこで気になるのが何をもって怠ったというのか、というところ。「法令遵守」「善管注意義務」に反していないかどうか、がポイントとなります。
後者については、
・行為当時の状況に照らし合理的な情報収集・調査・検討等が行われたか
・その状況と取締役に要求される能力水準に照らし不合理な判断がなされなかったか
といった基準で判断すべきとされています。
なお、弁護士その他の専門家の知見を信頼した場合には、「合理的な」情報収集・調査等とみなされます。
会社が行ったことにより第三者に損害を与えた場合、会社だけでなく、取締役がその損害を賠償しなければなりません。
会社法では、取締役が職務を行うについて悪意又は重大な過失があった場合、第三者に生じた損害をも賠償する責任を負う(429条)とされており、この場合、たとえ破産してもその責任が免れない可能性もあります(非免責債権)。
言い換えれば、生涯にわたって賠償金支払いの重荷を背負っていくことになります。
しかし、取締役といえども、負担が重すぎると萎縮してしまい、本来あるべき業務執行ができなくなってしまいます。
そこで、なんでも責任論にするのではなく、適正な経営判断であれば問題ないとともされています。これを経営判断の原則といいます。
ただし、あくまで「役員として求められる程度にちゃんと考えた結果」である必要はあるので、「役員レベルなら知ってるべき」的なミスや誤認があると「適正」でないとされてしまいます。
取締役個人に対し自社だけでなく、第三者からも損害賠償の請求をされた事例は数多くあります。取締役はこのような個人的なリスクを常に抱えているものと理解して業務を遂行する必要があるものと言えるでしょう。
弁護士や会計士等専門家の知見を活用するのが取締役の責任を軽減する方法でもありますので、難しい状況に直面した場合は、早めに相談するのが一番です。
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池田ビジネスコンサルティング
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