事業再生支援が届かない理由——窮境中小企業が今すぐ取るべき行動

東京商工リサーチ(TSR)が2026年6月27日に公表した分析レポート「待ったなしの『再生・廃業支援』の高度化」によれば、2025年度の企業倒産件数(負債1,000万円以上)は1万505件と前年度比3.5%増に達しました。

 

2年連続で1万件を超えたことになります。また、過剰債務を抱えると回答した中小企業は全体の25.6%に上り、財務的に厳しい状況に置かれている企業が相当数存在することが改めて示されました。

 

同レポートでは、2期連続で経常赤字となった企業を「窮境」と定義し、業種・都道府県別にその実態を詳細に分析しています。分析によれば、倒産企業の倒産直前の経常利益率はマイナス3.0%だったのに対し、生存企業は8.8%と大きく乖離しており、経常赤字が複数期にわたって継続している点が倒産企業の財務的な特徴とされています。

 

 

この分析を踏まえ、中小企業の事業再生・経営改善支援に実務として携わる立場から、現場の肌感覚と照らし合わせながら考えを整理してみたいと思います。

 

地方の苦境:業種と地域の複合リスク

今回のTSRレポートで特に印象的だったのは、窮境企業の分布が特定の業種・地域に集中していることです。

窮境比率(2期連続で経常赤字の企業数÷分析対象企業数)が20%を超える業種として、「医療業」が42都道府県、「社会保険・社会福祉・介護事業」が37都道府県で該当するなど、医療・介護分野は全国的に広く苦境に立たされています。

 

コロナ禍での受診抑制からの回復が一部にとどまる一方で、物価上昇・人件費増・診療報酬改定の影響が重なり、中小規模の医療・介護事業者の経営体力を削いでいる構図です。

 

地域性という観点では、瀬戸内4県(岡山・広島・香川・愛媛)および鹿児島県の水運業、沖縄県の道路旅客運送業、京都府の繊維工業・電子部品製造業なども高い窮境比率を示しています。

 

これらは単なる業績悪化の問題ではなく、地域住民の移動手段・産業基盤・サプライチェーンに深く根ざした業種であり、事業の縮小・停止が地域経済全体に波及するリスクを抱えています。

こうした地域特有の産業・インフラとの結びつきが、支援の複雑さをさらに増しているといえます。

 

 

私が日常的に接している東京・都市圏の中小企業の状況と比較すると、地方の窮境実態はより深刻で、業種・地域・雇用の複合的なリスクが重なり合っている印象を強く受けます。データで見ると、あらためてその厳しさが浮かび上がります。

 

「支援マンパワーが足りない」という見立てへの疑問

TSRレポートは、伴走支援側のマンパワーは限られており、窮境企業のすべてに対応することは難しいと指摘します。そのうえで、地域性・業種・雇用への影響を加味しながら支援の優先順位を付ける「トリアージ」の高度化が必要と論じています。

 

支援の選別が必要になりつつあるという問題提起は、制度的・政策的な観点から重要な議論です。しかし、実務に携わる立場から率直に申し上げると、「支援するマンパワーが絶対的に足りない」という見立てには少し留保が必要だと感じています。

 

「事業再生 支援」「経営改善 コンサルタント」「財務リストラクチャリング」といったキーワードで検索してみてください。中小企業診断士、公認会計士、認定支援機関、民間コンサルタントなど、対応する専門家・支援機関は全国に相当数存在します。

 

そしてそのほぼすべてが、オンライン対応を前提として地方の案件も受け付けています。

 

 

支援者の絶対数が不足しているというより、窮境に陥った企業と支援者との間に「接続が起きていない」というのが、より実態に近い表現ではないでしょうか。

 

なぜ接続が起きないのか——窮境企業が動けない4つの理由

では、なぜ支援者と窮境企業の接続が起きないのか。現場の経験から、主な理由は次のように整理できます。

①相談できること自体を知らない

「こんな状態で専門家に相談できるのだろうか」「もう手遅れでは」と感じ、そもそも支援を求めるという選択肢が視野に入っていない経営者は少なくありません。

 

事業再生は倒産寸前の特殊な手続きだと誤解されているケースもあります。実際には、業績が悪化し始めた段階——赤字が継続しているが、まだキャッシュが残っている局面——でこそ、早期に専門家へ相談することが最も効果的です。

 

②どこに相談すればいいかわからない

中小企業活性化協議会(旧・中小企業再生支援協議会)、認定支援機関、商工会議所、民間コンサルタント——制度・窓口が複数存在するなかで、自社の状況に合った支援先を選ぶこと自体がハードルになっています。何から手をつければいいかわからないまま時間が過ぎていくケースは、実際に多くあります。

 

③選べない、決断できない

仮に支援者の候補が見つかったとしても、「本当にこの人に任せていいのか」「費用はどうなるのか」「銀行や取引先にばれないか」という不安が重なり、相談の一歩を踏み出せないことがあります。経営者が孤独に抱え込むほど、判断力も低下しやすくなります。

 

④日々の問題に追われて動けない

資金繰りの悪化、従業員への対応、取引先からのプレッシャー、銀行交渉——目の前の問題に追われる日々のなかで、中長期的な再生に向けた行動に踏み出す余裕が生まれない、という経営者の実情もあります。「考える暇がない」という状況が、支援へのアクセスをさらに遠ざけています。

銀行に支援の役割を期待することの限界

窮境企業の支援において、メインバンクや地域金融機関への期待が語られることがあります。日頃から取引のある金融機関が最初の相談窓口になりやすいのは事実です。

 

しかし、銀行が伴走支援に深く入り込むことには、構造的な困難があります。銀行員はリレーションシップ・バンキングの観点から顧客の経営状況を把握する役割を持ちつつも、融資審査・回収管理という本来業務との兼ね合いがあります。

 

窮境企業に対して「支援者として深く関与する」と同時に「債権者として管理する」という二つの役割を同時に担うことは、利益相反に近い状況を生み出しかねません。

 

さらに、一人の担当者が抱える先数を考えれば、個別企業の経営改善に深く伴走するためのマンパワーを確保することは現実的に難しいのが実情です。金融機関は「早期に気づいて専門家につなぐ」ことが現実的な役割であり、再生の実務を担うのは別の専門家であるべきです。

 

 

このことは、銀行の能力や姿勢の問題ではなく、制度・構造上の問題です。窮境企業の経営者が「銀行が何とかしてくれるだろう」と期待し過ぎることも、支援へのアクセスが遅れる一因になっています。

 

地方と都市圏のギャップ——知識・意識の格差という現実

もう一つ、実務を通じて感じることがあります。事業再生や経営改善に関する情報・意識の水準が、地方と都市圏でかなり異なるという点です。

 

都市圏では、セミナーや勉強会、専門家との接点が比較的多く、「経営が苦しくなったら専門家に相談する」という行動が一定程度文化として根付いています。一方、地方の中小企業経営者にとっては、「事業再生」という概念そのものが縁遠く感じられることも少なくありません。

 

「再生といえば倒産の一歩手前の話」「うちには関係ない」という認識のまま、気づいたときには手遅れに近い状況になっているケースがあります。

 

TSRのデータが示す地方の窮境比率の高さは、こうした情報・意識のギャップとも無関係ではないと考えています。窮境状態にあっても自社の状況を客観的に把握できていない、あるいは把握していても適切な支援につながれていない企業が、データの背後に相当数存在するはずです。

 

 

支援の「高度化・トリアージ」という議論と並行して、窮境企業側の情報リテラシーをいかに底上げするかという視点も、同様に重要だと感じています。

 

「動くこと」が再生への唯一の入口

中小企業の事業再生支援に実務として携わってきた経験から、明確に言えることがあります。

 

窮境に陥った企業が専門家に相談し、適切な支援につながった場合、倒産を回避できるケースは思っている以上に多い、ということです。

 

「もう手遅れかもしれない」という状況でも、財務リストラクチャリング・経営改善計画の策定・銀行交渉・事業再生M&Aなど、打てる手は複数存在します。逆に、行動しないまま時間が経過するほど、キャッシュは枯渇し、選択肢は確実に狭まります。

 

支援が届かないのは、支援者が足りないからではありません。窮境企業自身が、支援を求めて自ら行動を起こすことが、再生への最初の、そして最も重要な一歩であるのです。

 

 

「このままでは危ないかもしれない」と感じている経営者の方、ぜひ一度、専門家へのご相談を検討してください。相談の場を設けること自体に、ほとんど費用はかかりません。早く動くほど、選択肢は広がります。

■ 当事務所へのご相談

池田ビジネスコンサルティングでは、中小企業の事業再生・経営改善・財務リストラクチャリングについてご相談をお受けしています。「現状を整理したい」「銀行交渉をどう進めるべきか」「経営改善計画書の作り方がわからない」——どのような段階のご相談でも、まずはお気軽にお問い合わせください。

 


 

【参考資料】
東京商工リサーチ TSRデータインサイト「待ったなしの『再生・廃業支援』の高度化 ~ 有限の支援人材、業種と地域性を加味した『トリアージ』 ~」(2026年6月27日公表)
https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1202978_1527.html

 

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